2006年9月26日(火)18時30分から21時
新興市場の国際通貨危機に関する研究動向
講師:北野重人(きたのしげと)(和歌山大学経済学部助教授)
名古屋大学大学院経済学研究科修了
経済学博士(名古屋大学)
参加者13名
開口一番、ある情報データベース会社が今年のノーベル経済学賞を受賞するだろう候補の予想を教えてくれた。
国際貿易理論への貢献分野、計量経済学に関する貢献分野、ミクロ経済学、契約、コーポレートガバナンスに関
する貢献分野に対する有力候補者が分かった。そして、今回その国際貿易理論での有力候補の一人であるポール
・グルーグマンは、実は通貨危機の分析においてもパイオニア的存在であったことを強調された。
講師は国際マクロ経済学の研究を行い、新興市場の通貨危機を研究している。発展途上国ではGDPの10%か
ら20%が通貨危機で変動してしまう現実と、南米では高インフレや通貨危機が歴史的に繰り返され、それに対
する政策が課題になっているらしい。そのような背景もあり、本日は2002年初めのアルゼンチン通貨危機に
対する講師の分析を通じて、今の世界経済を読み解くヒントと視座の大切さを教えて頂きました。
80年代後半から90年代前半にかけて、先進国からラテンアメリカやアジアの新興市場への急激な資本流入が生じ
ました。この資本流入は、特にアジア新興市場の急激な成長と相俟って、当時たいへん注目されましたが、その
後状況は一転し、新興市場では東アジア通貨危機・アルゼンチン危機といった国際通貨危機に見舞われました。
新興市場の国際通貨危機は、研究者の間で盛んに研究されて、今までは外貨準備の不足の観点から説明するモデ
ルや金融不安による政府の将来の財政支出増大により説明するモデルがあったが、アルゼンチン危機ではカレン
シーボード制と政府の対外債務の急激な増加が重要なファクターであった。
(講義風景)

アルゼンチンでは、1991年から2002年初めまでカレンシーボードを行っていた期間があり、その期間は
インフレ率も下がり、物価も安定していた。GDPや為替レートも安定して成功と思われていた。
それなのに何故、通貨危機が起こったのか?
実は、1993年に12億ドルであった対外債務がその8年後の2001年には741億ドルと何と70倍もの
対外債務の累積になっていたのだ。その為に2001年12月には固定相場制を放棄し、金融部門の危機へと展
開してしまったのだという。
そもそも、耳慣れないカレンシーボードとは、日本銀行の委員会のようなものらしい。そして、その政策は、
1.アルゼンチン・ペソを1ペソ=1ドルに固定
2.アルゼンチンの全てのペソをドルに交換できるだけの外貨準備
3.ペソの信用を高め、インフレ圧力を抑制
4.安定成長、低インフレの高パフォーマンスで評価を高める
であったが、財政収支の改善能力のない、カレンシーボードが持続不可能なケースの為に対外債務額が限界に達
した。政府部門の破綻で対外債務の急激な増加が生じ、財政赤字を補填する財源が必要になり貨幣発行からの収
益を得てインフレ税を得る為に貨幣発行が政府裁量下の変動相場制に移行せざる得なくなり、金融部門の危機に
展開したのだ。これが、アルゼンチン危機の真相らしい。
経済学はさまざまな危機が起こるたびに後追いで研究し説明モデルができるそうだが、今回の講師の分析力には
参加者全員感心させられました。そんな経済学をもっと勉強して、その励みになる検定があるそうです。
経済学の実力を全国レベルで判定できる「経済学検定試験」が今年で11回目を迎えるとのこと。
並み居る有名大学の受験者の中でも和歌山大学の学生が連続して成績優秀者として名前を載せているようです。
我こそはと思う方は、是非挑戦してみて下さい。
(経済学検定試験案内)
今回は、アルゼンチンに何度も行かれた大先輩や若手の参加者からも活発な意見が出されていました。
アルゼンチンの通貨危機の話しから参加者の関心はドル、ユーロにも及びロシアやブラジルの将来性議論でも盛
り上がりました。
昔の新興市場を考察することで、これからの日本とBRICSの関係や投資に参考となりそうなことも発見でき
ました。
若手のホープ北野重人先生のこれからの研究成果を期待するとともに、その成果の出版を楽しみにしています。
北野先生、お忙しいところ人生塾のために興味深い資料を多数ご準備いただき、本当に楽しく為になる講義を
ありがとうございました。
主要研究業績:
[1] “The Government’s Foreign Debt in the Argentine Crisis” Vol. 9, Issue 3, pp.368-379,
Review of Development Economics, 2005.
平成14年度兼松フェローシップ(神戸大学経済経営研究所)入賞論文
[2] “Macroeconomic Effects of Capital Controls as a Safeguard against the Capital Inflows Problem”
Vol. 13, No.3, pp.233-263, Journal of International Trade and Economic Development, 2004.
第5回 社研・森口賞(大阪大学社会経済研究所)入選論文
[3] “A Model of Balance-of-Payments Crises due to External Shocks: Monetary vs Fiscal Approach”
Vol. 56, No.1, pp.53-66, Bulletin of Economic Research, 2004.
講師から一言:柑芦会の諸先輩方、BRICSをはじめ新興市場について、様々な実務経験に基づく洞察ある
お話をお聞かせいただきありがとうございました。
報告者:塾長 渡邊 豊(33期)