2008年1月18日(金)18時30分から21時
『田舎暮らし(カントリーライフ)のすすめ』
-食料・農業・農村の現状から考える-
講師: 橋本 卓爾(はしもと たくじ)先生(和歌山大学経済学部経済学部経済学科教授)
プロフィール:大阪市立大学大学院経済学研究科博士課程終了・農学博士
1996年和歌山大学へ、広島県出身
専門分野は農業経済、地域政策
研究は、都市と農村との共存、都市農業・中山間地域農業の保全と
活性化がテーマ
参加者20名
まず冒頭、<食料・農業に関する基礎データ15>(末尾に掲載)という食料・農業・農村の
現状を理解する為の簡単なクイズ式の小テストがあり、お話が始まりました。
(Ⅰ)深刻化する食料・農業・農村・環境問題のまとめ
(1)ハツカネズミの実験の紹介(餌と温度条件は同じです)
・ハツカネズミを、①木製の入れもの ②鉄製の入れもの ③コンクリート製の
入れものに入れた場合、23日後の生存率は①は87% ②は40% ③は7%。
・生き物は、入れものにより寿命に10倍もの開きがあるということ。
入れものとは、環境そのもの・・・地域のよし悪しが命や健康に大きく影響する。
(2)住みにくくなる都市
・大都市の食料自給率は、東京都1%、大阪府2%、神奈川県3%。極限まで
「食の外部化」は進んでいる。
・都市では、生き物たちが「死の行進」・・・都会の生き物は人間・カラス・ゴキ
ブリしかいない。
・緑被率が50%を切ると生き物は死んでいく。
大阪市市街化区域内の緑被率は、2002年9.5%
→お勧め図書:「都市の自然史」中公新書 品田穣著
・元大阪市長 関一(せき はじめ)・・・「高層ビルは墳墓である」
(3)崩壊の危機に瀕しているわが国の農村
・鯉幟の泳がない村・・・子供のいない村のこと
・「限界集落」・・・65歳以上が50%占める村
約8000集落/全13500集落
(4)大変な状態にあるわが国の食と農
・食料自給率・・・39%
・「フードマイレージ」(=食料の輸入量×輸送距離で単位はトン・キロメートル)
という言葉あり。(輸送過程の環境負荷の視点)
日本:9000億 米国:3000億 英独:2000億
仏:1000億 で→ダントツ日本が大きい(悪い)
・「青い目のアジ」「空飛ぶマグロ」・・・外国で取れたものばかりの意味
・コンビ二の弁当は16万キロ(地球一周4万キロの4倍)
(Ⅱ)動き始めた都市と農村の交流・対流
(1)「都市市民が農業・農村に向かう動き」
・現在は戦後3回目の波 1回目:戦前・戦後・・・買出し、強制帰納、援農
2回目:1970年産直ブーム
3回目:1990年~現在
・その動きを列挙すると・・・産直、宅配便、農産物直売所、市民農園、棚田オー
ナー、グリーンツーリズム、農作業体験、援農、定年帰農、新規就農等々
(2)「都市市民を農業・農村に迎え入れる動き」
・農村の壁、農業の壁がなくなりつつある・・・排除から歓迎へ
・「農家民泊」・・・修学旅行の受入体制整備に保健所協力と旅館業法の柔軟運用
(Ⅲ)田舎暮しのすすめ
(1)田舎暮らしは、「自分探し」「自己実現」の場だけでない。また農村に住むことだけ
ではない。自分なりの多様なかかわり方ができる。
(2)関わり方のいろいろ・・・あなたに合う関わり方は?
①食料・農業・農村に関心を持つ
②何らかの形で農作業をする
③農村・農家と交流をする
④農村(田舎)を訪れる、農村に泊まる
⑤週末等に田舎で暮らす
⑥農村(田舎)に移住して暮らす
⑦農業の担い手になる
(3)田舎暮らし(カントリーライフ)実現の為に!
(ステップ1)どこをを選ぶか?
・入れもの(容器)選びが大事・・・ハツカネズミの実験
・ポイントは「自分の重視する点はなにか」ということ
→そして家族とよく話し合う
(ステップ2)現地に行く
・実地経験をする
(ステップ3)人とのつながり
・現地の人とのコミュニケーションが大事
(ステップ4)資金計画
・資金計画をしっかり立てる
<所感等>
①橋本先生は、和歌山県の移住促進協議会の委員長をしているそうで、お話は、実体験に基づく
骨太な内容でありました。
和歌山県のお勧め地として、日高川町(旧中津村)、有田川町(旧清水町安諦(あぜ)地区)
が紹介された。県の窓口として、「新ふるさと推進課」があるそうです。
②先生の持論は、「豊かで、住みやすい地域を作るには、人間の二大定住地域である都市と農村
の交流と共存が不可欠」ということ。
③都市市民との交流以外に農村・農業の生きる道つまり地域再生がないとしたら残念だけれども
しかたがないのかもしれない。都市市民(年金生活者)のお金が地域に落ちるのを期待する
だけだとしたら残念だ。農村の自立への道は、途絶えてしまったのだろうか?
④私は、農家の長男として生まれながら(奈良県五條市)都会生活者になってしまいました。
両親もなくなりましたので、耕作放棄地になっている土地もあります。
私は、昨年現在地(枚方)で共同で米作りをし、農業機械の扱いに慣れました。
将来は田舎と現在地とのバランスあるダブル生活をしたいと、その方法を模索しています。
多少自責の念を持ちながら先生の話をお聞きしたしだいです。
<食料・農業に関する基礎データ15>(答えを見ずに一度チャレンジしてみて下さい)
1.食料・農業・農村基本法が制定された年は、①1961年 ②1992年 ③1999年
2.日本の政府が2015年に達成目標としている食料自給率は、①45% ②60% ③80%
3.最近果物の自給率が低下してきたが、それでもなんとか50%台はキープしている。
( ホント ウソ )
4.最近(2001年)の魚介類の自給率は、①49% ②59% ③66%
5.生鮮野菜の輸入量はこの10年で(’91~’01)で3倍も激増している。
( ホント ウソ )
6.東京都の食料自給率は5%しかない。 ( ホント ウソ )
7.総務省の「家計調査」によると最近(2000年)の1世帯あたりの費目別食料費で一番
大きな比重を占めているのは外食費である。 ( ホント ウソ )
8.最近讃岐うどんがブームになっているが、その原料の小麦の半分近くはやはり地元(周辺
の県も含む)で供給している。 ( ホント ウソ )
9.最近酒類が多様化し、消費量も盛衰が見られるが日本酒と焼酎の消費量を比較するとやはり
日本酒がかなり上回っている。 ( ホント ウソ )
10.農村の中心的担い手である農業就業者は、1960年には1200万人近くもいたが
最近では半分になった。 ( ホント ウソ )
11.農業就業者のうち65歳以上の高齢者の占める比率は1970年には12%程度であった
が、最近(2001年)では50%近くにもなった。 ( ホント ウソ )
12.酪農家は、25年前には12万戸を超えていたが、最近(2001年)では、
①3万戸余り ②4万戸余り ③5万戸余り
13.農地の利用程度を示す耕地利用率は10年前はかなり低下したが、最近はだんだんよく
なっている。 ( ホント ウソ )
14.最近(2001年)の農水省の調査によると「食」と「農」との距離が拡大したと思う人
は、 ①11.0% ②22.2% ③65.6%
15.国民が食料に100円使った場合、一番取り分の多い食料関連産業・業種は国内農業であ
る。 ( ホント ウソ )
《答》
1.③ 2.①
3.ウソ 4.①
5.ホント 6.ウソ→5%でなくて1%
7.ホント 8.ウソ→半分でなくて90%がオーストラリア輸入
9.ウソ 10.ウソ→1200万人でなくて300万人
11.ホント 12.①
13.ウソ 14.③
15.ウソ→たった19円
報告者:浦 義弘(大学17期)
以上

カントリーライフともて囃されているが、けして農村はパラダイスでは無さそうだ。
昨今の日本食ブームもあり、サクランボや日本茶、日本酒、果物、お米、梅干しなど競争力のある商品も出ている
が、緑地率が50%を割るとトンボやバッタを見かけなくなるという。都会は、取り返しが付かない状況だ。
道路などの国土軸では乗り遅れた感のある和歌山だが、日本人にとって大切な自然や歴史・文化遺産、温泉、森林、
水産など資源が沢山残っているのは大いに心強く感じた。
人生複線化のライフステージのどこかの段階で、田舎での暮らしも必ず役に立つ気がする。
必ずしも、移住し定住する必要も無いのですが、都市と農・漁村などの田舎との大いなる対流が必要だと実感しまし
た。
農村では高齢化は言うに及ばず、イノシシやサルなどの鳥獣害被害が200億円にも上り、深刻な精神的な被害も拡
大していると聞き、何かお役に立てないか多くの人にアドバイスをお願いしたいです。
東京1%、大阪2%、神奈川3%という食糧自給率を都市部の人全員に再認識して頂き、大いに食糧問題と環境問題
の議論を高め、如何に都市と田舎での対流や交流が大切なのかをまずは日本国内に視座を置いて考える機会ができれ
ば、いや、作らなければならないと思いました。
和歌山県への移住促進の座長などを務められる講師に、もっと和歌山の隠れた良さを教えて欲しかったとの声がしき
りで、名残惜しい一時でした。
和歌山大学の新観光学部が躍進するだろうという確信が持てた一時でもありました。
橋本先生、お忙しいところ人生塾のために興味深い問題やレジュメをご準備いただき、楽しい講義を本当にありがと
うございました。
共著:『
食と農の経済学―現代の食料・農業・農村を考える (MINERVA TEXT LIBRARY (37))
』(ミネルヴァ書房)
『
地域産業複合体の形成と展開―ウメ産業をめぐる新たな動向
』(農林統計協会)
など
参考: 『
田舎暮らし応援県わかやま』和歌山県新ふるさと推進課』
文責:塾長 渡邊 豊(33期)